偽史と空想力

(SF乱学講座・2006年2月5日・高井戸地域区民センター)

『上記』[うえつふみ]
 貞応2年(1223)、豊後国主・大友能直と家臣たちの編纂と伝えられる。
 天保の頃、国学者・幸松葉枝尺によって現大分県大野郡大野町で発見される。
 明治10年、『上記鈔訳』(吉良義風訳)として内容を紹介(以上、宗像本)。
 明治6年、現大分県臼杵市福良在住の大友淳(あつし)により提供。
 現在は大分県立大分図書館蔵(以上、大友本)
 全文が象形文字とカタカナの中間のような特異な記号で記される(トヨクニ文字)。
 神武天皇の大和での即位以前にウガヤフキアヘズ73代の皇統譜とその事績を記す
 (ただし、第73代は神武天皇と同一人物とされる)。
 『古事記』よりも雄大な国産み・神産み説話。
 農業・医療・暦法・金属精錬など生活に密着した技術関係の記述。
 カラシナ(中国?)オルシ(ロシア?)シラヒト(新羅?)などとの外交記事
 ウガヤフキアヘズ歴代の都は九州(豊後・肥後・筑紫方面)。

『竹内文書』[たけのうちもんじょ]
 皇祖皇太神宮=天津教(茨城県磯原市)の御神宝と称される。
 竹内巨麿により、大正末期〜昭和初期にかけて公開。
 幾億年というタイムスパンにより、宇宙創造・人類発祥から日本史を説き起こす。
 人類発祥の地としての天越根国(越中)・日玉国(飛騨)
 皇祖神からの五色人(青・赤・黄・白・黒の各人種)発祥。
 「天空浮船」による古代天皇の万国巡航(アジア・ヨーロッパ・両米大陸・オセアニア)
 失われた大陸ミヨイ・タミアライ(ムー、アトランチス?)
 聖者来日伝説(モーゼ・釈迦・キリスト・漢武帝・マホメット)
 日本のピラミッド(広島県庄原市の葦嶽山、他)

『富士古文書』[ふじこもんじょ] (『宮下文書』『徐福文書』)
 富士浅間神社の元宮・阿祖山大神宮の御神宝と伝えられる。
 明治16年(1883)、山梨県富士吉田市明日見の宮下家より発見。
 大正10年(1921)、『神皇紀』(三輪義煕著)でその内容が紹介される。
 人類発祥の地は富士山。ただし原初の神々は大陸で発展。
 女王としてのコノハナサクヤヒメ(浅間神社御祭神)
 浅間神社のみならず伊勢神宮・出雲大社・八幡宮・賀茂神社・天神社・稲荷神社・
 胡神社・白山神社・大神神社・阿蘇大社などの元宮でもある阿祖山大神宮。

『秀真伝』[ほつまつたゑ]  『三笠文』[みかさふみ]  『太占』[ふとまに]
 景行天皇の御代(1〜2世紀頃)、オホタタネコ(三輪・賀茂系氏族の祖)
 オオカシマ(中臣氏・藤原氏の祖)らによって編纂されたと伝えられる。
 8世紀、弓削道鏡によっていったん破却され、近江にのみ残ったという。
 安政8年(1779)頃、神道家・井保勇之進(和仁估容聡、三輪容聡)によって
 『秀真伝』が近江国高嶋郡産所村の三尾神社に納められ、神宝となる。
 昭和41年(1966)、松本善之助氏により再発見、調査が進められる。
 全文が幾何学的な構造の特異な記号で記される(ホツマ文字、ヲシデ)。
 五七調の歌で語られる長大な叙事詩(ただし『太占』は短い歌の集積)。
 原初神クニトコタチから流出した五大元素から巨人ミナカヌシが生まれ、
 そこから世界が生まれるという壮大な宇宙観。
 日高見高天原と近江高天原。
 記紀の天照大神に相当するのは女神ワカヒメ(ヒルコヒメ)と男神アマテル。
 日本の神の別れとしてのコロ(崑崙)アカガタ(赤県=中国)の神々。
 英雄ヤマトタケの死を契機としての編纂。
 歌道・有職故実・神道・陰陽道の秘伝書としての性格。

※和田家文書(『東日流外三郡誌』[つがるそとさんぐんし]等)
 天明〜文政年間、三春藩主の義兄・秋田孝季と津軽の庄屋・和田長三郎吉次が全国巡脚、
 さらに朝鮮・中国・中近東までめぐって集めた口承・文書類に基づき編纂(とされる)。
 陸軍中野学校出身・海軍航空隊所属を称する和田喜八郎が戦後、郷里で落ち着いた後、
 家の屋根裏を突き破って落ちてきた長持ちから出てきたという。
 火山崇拝の民アソベ族、東の大陸からわたってきた騎馬の民ツボケ族、
 神武東征で畿内から追われたナガスネヒコ一族、春秋戦国の動乱で中国を追われた亡命者、
 彼らが古代津軽の地で形成した混成民族「荒覇吐(アラハバキ)族」の歴史。
 ビッグバン宇宙起源論、進化論、「ウエゲナア」説など、自然科学についても言及。
 実際には和田の自称した経歴はことごとく詐称、和田の住んでいた家に屋根裏ができたのは
 1950年以降。秋田孝季・和田長三郎吉次は架空の人物だった。
 マスコミ・自治体刊行物などを通じて広まり、東北地方の郷土史に大きな影響を残す。

◎ウガヤフキアヘズ朝の諸相
 『竹内文献』―全世界を統治するハイテク国家、73代、越中の皇祖皇太神宮が中心。
 『富士古文献』―西方からの外寇を迎え撃つ九州軍事国家、51代説と72代説あり。
 『九鬼文献』―高千穂にウガヤフキアヘズ王朝73代があった、との記述のみ。
 『神伝上代天皇記』―王名と陵墓の所在のみ記述。73代。